高田渡にとってライブはそれこそ吉祥寺の立ち飲み屋にいる時と同じく日常であった。その日もいつものように高田渡は歌い、夜の街に消えていった。今も僕らの知らない土地で歌っているのか、飲んでいるのか。今日もどこかで父は冗談話をしているに違いない。悪戯な笑顔とともに。

高田 漣(ミュージシャン)


吉祥寺の住人同士ということもあり、渡さんとは焼き鳥屋「いせや」や「のろ」で一杯やることもあった。この映画の中の渡さんは確かにいつものまま。自分の書いた詞だろうが人様の詩だろうが、すべて自分の言葉と声に、音にしてしまうその人物。渡さんだけのあの、ギターのピッキングに酔いながら「風」で唄われる「本当のことが言えたらな」に目頭を熱くし、「言ってるくせに」と目の前の高田渡さんに話しかけていた。

佐野史郎(俳優・映画監督)


ボロボロだったらどうしよう、ひどかったらつらいなと、見るのがとてもこわかった高田渡さんの東京での最後のライブが収められたこの映画。でもそこには元気いっぱいではないけれど、いつもの渡さんの姿が、「後期」の渡さんのライブのありのままの姿が、鮮やかにとらえられていた。でもあまりにもリアルで鮮やかなだけに、もう渡さんはいないんだ、渡さんにはもう会えないんだ、何でこんなにも早く歳月が流れるんだと、つらく、悲しく、寂しい気持ちにぼくは襲われてしまった。

「後期」の渡さんのライブでは、ときどき、一瞬だけれど、次の歌詞が出てこなかったり、ギターの音が出てこなかったりする、短い「間」があった。この東京でのラスト・ライブでも、そんな「間」が何度か訪れる。でも一瞬ののち、渡さんはまるでなにごともなかったかのように、次の言葉を歌い、次のギターの弦を弾いている。

 この渡さんの「間」は、それこそ芸の域に達していたとぼくは思う。そしてぼくはこの「間」を、一人で勝手に「魔の間」と呼んでいた。すぐとなりに魔が待ち受けているかのようなそんな「間」だったのだ。渡さんのこの恐ろしくも絶妙な「魔の間」をぼくはこれからもずっと楽しみたかったし、まだまだずっと楽しめると思っていた。でも渡さんの東京でのラスト・ライブが記録されたこの映画が、残酷すぎる事実をぼくにはっきりと突きつける。渡さんの「魔の間」はもう二度と楽しめないのだという事実を。渡さんの一瞬の「間」は永遠の「間」となり、渡さんはあんなに若くして魔にさらわれてしまったのだ。

中川五郎(フォークシンガー・文筆家)


渡さんがいなくなる少し前、吉祥寺の伊勢屋でばったり会った。一回ではなく数回。ほとんどは昼下がり。僕を見るなり渡さんは、「バカなんだよこいつは、あと先考えずにオウムを撮ったりするんだよ」と周囲の人に嬉しそうに言い、僕も周囲も困っていた。

けっこう毒舌。でも誰も怒れない。だってペーソスそのものだもの。映画を観ながらあらためて思う。唄い、そして、歩き、喋る。すべて高田渡だ。ある意味で当たり前。でも渡さんはその度合いが普通より強い。

ラストの転居の文字が寂しい。でも転居だ。どこかにいる。そう思えばいい。少なくとも映画を観れば、音楽を聴けば、そこにはまぎれもない高田渡が息づいている。

森 達也(作家・映画監督)


映画『タカダワタル的』はかなり渡的な映画だったけど、この『ラストライブ』は渡的というより、渡そのものだ。代島さんが、最期に普段着の渡を撮ってしまった。この映画の中で、ぼくたちはいつでも渡に会うことができる。向こうはこれ以上年をとってくれないのがせつないけど。

小室 等(ミュージシャン)


この映画のなかの渡ちゃんは、文字通り、いつもの夜みたいに歌っているけど、イサトさんやゴローさんの染み入るような言葉がかさなると、時代と歌と友情のなつかしい物語を読んだような感覚が残ります。

南  椌椌(アーティスト・カレー屋店主)


映画の中で渡さんが飼っていた犬の話をしていた。

そうか、意外だったな。

渡さんは断然猫のイメージだ。

ライブの合間、前を向いて喋っていたのに、言葉の終わりにふと横を向く仕草が猫みたいだった。

前足で獲物をつついていた猫が、急にそっぽを向いて立ち去る時みたいだ。

ハンバート ハンバート  佐野遊穂(ミュージシャン)


俺は高校生のとき、高田渡のCDでフォークやカントリーのギタースタイルを学びました。

この映画の何が嬉しいって、ギターを弾く彼の手元がしっかり映っていること。

このリズムパターンをこういう右手の使い方で弾いていたのか、などいくつも発見がありました。

さっそく真似したいです。

ハンバート ハンバート  佐藤良成(ミュージシャン)


高田渡さん、その存在自体が作品のよう。

ひとつのつぶやきや、ひとつの仕草、その目線までも、どこまでも絵になる人。

そして、絵になっても、ならなくっても、

みんなそれぞれ生きてるんだって事を感じさせてくれる歌を歌ってくれる。

生々しい映像と相まって、渡さんの表情にぐっと引き込まれます。

おおはた雄一(ミュージシャン)